大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1114号 判決

控訴人(被告)

猪木哲夫

右訴訟代理人

梅本敬一

外一名

被控訴人(原告)

吉田敏子

外一名

右訴訟代理人

蝶野喜代松

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事   実≪省略≫

理由

≪前略≫

1. 右認定の事実によると、本件土地についての、原告らの不法に抹消された所有権移転請求権保全の仮登記は、被告の所有権取得登記に先立つものである。従つて、原告らの右仮登記の抹消回復登記の本登記について、被告は登記上の利害関係を有する第三者というべきである。

2. 仮登記は、本登記の如く不動産物権の変動につき対抗力を有するものではない。しかし、本登記の要件を具備するに至つた仮登記権利者は、昭和三五年法律第一四号で改正される前の不動産登記法の下においても仮登記後にその効力に抵触する物権変動につき登記を受けている第三者に対し、その抹消登記手続の請求権があるものとされていたが、右改正後はこのような第三者に対し本登記手続の承諾請求権があるものとされている。右のように仮登記にも一種の対抗力があるものと解することができる。ところで、仮登記の主たる効力は、本登記をすることにより、仮登記から本登記までの間に登記のあつた物権変動の効力を仮登記に抵触する限度で失わしめることができることである。

右の如き仮登記の効力は、仮登記が不法に抹消せられることがあつても消滅するものではない。右抹消登記の回復登記は登記簿上の状態を本来の姿に回復するに過ぎないものであつて、これにより第三者は実体上何らの損害も蒙るものではない。従つて登記上利害関係ある第三者は善意無過失であつても右回復登記に承諾の義務があるものと解せられる。

被告は、その主張の如く善意無過失で本件土地を買受けその代金を支払つて所有権移転登記を経ているものであるとしても原告らが不法に抹消された本件登記の回復登記手続をするにつき、承諾の義務を有することは、右に説明したとおりである。被告が原告らの登記によつて損害を蒙るのは、回復登記のためではなく、所有権移転の本登記のためである。そして、本登記によつて仮登記後に物権変動の登記を受けた第三者が損害を蒙ることのあるのは、仮登記の効力のためであつて、やむを得ないところである。

3. そして、原告らは、前記認定のとおり代金を完済して右仮登記による本登記請求権を有するに致つているものであるから、被告は、原告らのする本登記手続につき承諾の義務があることも明らかである。<後略>(乾久治 前田覚郎 新居康志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例